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2023.09.02

【インタビュー】ピアニスト ディーナ・ヨッフェ 《後編》

6月13日に開催されたカワイコンサート2023「ディーナ・ヨッフェ ピアノリサイタル」に出演したディーナ・ヨッフェさんにインタビュー。インタビュー後編では、『芸術に点はつけられるのか』について、そして日本の音楽界・若手ピアニストにエールをいただきました。
取材・文=武田奈菜子(音楽ジャーナリスト)

インタビュー《前編》指導者、審査員の立場から見る国際コンクールの現状・・・などはこちら

6/13  カワイコンサート@兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール ダイジェスト動画はこちら

★WEB用IMG_86516/13   カワイコンサート@兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール


———芸術に点はつけられるのかについて

『芸術に点がつけられるのか』は、私も疑問に思っていることです。芸術に数字で点をつける、それはやはり良いとはいえない現実ですし、審査員としてもあまり気持ちのいいものではありません。

例えば、すばらしい演奏をしたピアニストがいたとして、私が「このコンテスタントは25点!」と思ったとしても、隣の審査員は17点をつけるかもしれない。でも、その審査員と実際に話してみると、同じように「いい演奏だった」と感じている。つまりその審査員にとっては「17点はいい点数」ということもあるわけで、そういう数字の罠のようなものもあるのです。

私はコンテスタントを評価する際には、「その時の演奏が完璧かどうか」よりも将来性を見たいのです。人間ですから失敗する時もあります。私たちは審査員として、ピアノの前に座る演奏者の立場に立って評価すべきだと思います。審査員の方がずっと楽なんです(笑)、演奏する方がよほど難しい。ですから、私は「このコンテスタントをどうしたら助けてあげられるか、チャンスをあげられるか」を考えます。私たちの仕事は、コンテスタントにその後役立つことをしてあげることです。ミスのない完璧な演奏を求める審査員もいると思いますが、「演奏が完璧か」ということよりも、その人の人生そのものに共感することが大切だと思います。たとえば今、ウクライナで起こっていることに対して、人によっては「遠い世界のこと」と感じているかもしれない。でも、私は人間として、そこで厳しい生活を強いられている人たちの思いを想像します。コンクールも同じです。芸術に携わる人間はそうでなければならないと思います。人に対する共感なくして、芸術は存在しないと思うのです。

 

———日本の音楽界、そして日本の若手ピアニストへのエール!

私が初めて日本に来たのは、ショパン・コンクール後の1979年でした。その頃に素晴らしいホールと評されていた、NHKホール、東京文化会館や東京芸術劇場などで演奏したのですが、いつも皆さまが温かく迎えてくださいました。それ以降も日本の音楽界は成長し、文化的な環境も大きく変わってきたと感じています。

音楽教育については、コンクールだけでなく、今回行ったマスタークラスなど、カワイ音楽振興会の方がたが、若い人たちに学びの場とチャンスを与えてサポートしてくださっているのは本当にすばらしいと思います。

それから、前回のショパンコンクールについての印象をお話ししますと、出場者の中でもっとも個性的で興味深い演奏をしていたのは、日本人のコンテスタントだったと思います。みなさんそれぞれ個性と特色があって、「ただ技巧だけ」という人はいませんでした。昔は「日本人は技巧派でイマジネーションに欠ける」と言われていたかもしれません。でも、今は違うと思います。もし日本人にまだ何らかのコンプレックスがあるのだとしたら、それはもう忘れてください。

WEB用DSC_1905ピアニスト:ディーナ・ヨッフェ


———ピアニストを目指す若い人たちに大切なことは

もちろん練習はとても大事ですが、学校だったり、生活の中での他のこととのバランスが重要です。子供たち、親御さんたちに申し上げたいのは、「ピアノだけが人生ではない」ということです。自然に親しんだり、友達と遊んだり、そういった時間もとても大事なのです。最近は小さい子供に、例えば算数やバレエなどで“チャンピオン”になることを求めすぎるのではないかと感じるのですが、親が子供の人生を決めてはいけないと思います。普通の人間としての人生も忘れないであげてほしい。つねに「1番にならなければ!」と言われてきた子供が、18歳くらいになってコンクールの1次審査で落ちてしまったら、その子にとって「人生は終わった」みたいになってしまうと思うのです。そうなってはいけません。人生はそこでおしまいではないのです。

ピアノを続けていくことは簡単ではありません。長く続けていく秘訣は何かといいますと、「ピアノが好き!」という気持ちです。そして、「懸命にエネルギーを向けたら、何かは必ず返ってくる」と考えてほしいのです。そういう考え、哲学を子供に持たせてあげることが大切なのではないでしょうか。

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< Shigeru Kawai(シゲルカワイ)の魅力についてもお話しを伺っています >

Shigeru Kawaiは機械生産ではなく手作業で作られているとうかがっていますが、人間と同じで、楽器によって個性があって、製作者がどれだけ愛情を込めて作ってくださっているかが伝わってきます。ピアノは生きものだと思います。最初の一音からぴったりくることもありますし、お互い試行錯誤しながら音を見つけていく場合もあります。私はShigeru Kawaiの温かい音色が大好きです。弾く上でも非常に快適で、音域ごとのバランスがとてもいいですね。ピアノ製作者のプロフェッショナルとしてのスキルだけではなく、その方の人柄が楽器に映し出されているような気がします。そこにこの楽器の真実があるように思います。

 

 

PROFILE ディーナ・ヨッフェ Dina Yoffe

リガ(ラトビア)出身。チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院においてヴェラ・ゴルノスタエヴァに師事。シューマンおよびショパン国際ピアノコンクールで上位入賞。ヨーロッパをはじめ日本、アメリカ、イスラエルなど世界各地で演奏活動を行う。これまでにズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー、ネヴィル・マリナー指揮NHK交響楽団など多くのオーケストラと協演。また室内楽にも積極的で、世界各地の音楽祭に参加しY. バシュメット、M. ヴァイマンなどの演奏家とも数多く共演している。1989~1996年 テルアビブ大学(イスラエル)ルービン音楽アカデミー教授、1995~2000年に愛知県立芸術大学(日本)客員教授、2012~2014年にハンブルク音楽大学客員教授、2014~2015年にクラクフ 音楽アカデミー(ポーランド) 客員教授を務め、現在はマラガ国際音楽フェスティバル芸術監督、リセウ音楽院(バルセロナ)特別教授、中央音楽学院(中国) 客員教授。また、国際ピアノコンクール審査委員も多数務める。日本ピアノ教育連盟名誉会員。第18回ショパン国際ピアノコンクール審査員。

Website : www.dinayoffe.com/
Facebook: https://www.facebook.com/people/Dina-Yoffe-pianist/100064690115875/

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