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2023.08.31

【インタビュー】ピアニスト ディーナ・ヨッフェ 《前編》

6月13日に開催されたカワイコンサート2023「ディーナ・ヨッフェ ピアノリサイタル」に出演したディーナ・ヨッフェさん。今回のプログラムに込めた思い、指導者、審査員の立場から見る国際コンクールの現状や日本の若手ピアニストへの見解をうかがいました。
取材・文=武田奈菜子(音楽ジャーナリスト)

6/13  カワイコンサート@兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール ダイジェスト動画はこちら

WEB用★DSC_1959---コピーピアニスト:ディーナ・ヨッフェ


———プログラムを選んだ理由

毎年、「今年は何を取り上げようか」とテーマを考えてプログラミングします。今年は、まず前半はベートーヴェンと決めました。すばらしい作品であるとともに、それぞれが対照的な《ピアノソナタ第14番「月光」》と《創作主題による15の変奏曲とフーガ「エロイカ変奏曲」》を選びました。シルヴェストロフの《使者》は、ウクライナとロシアの紛争が続いている現在、私自身は何の力にもなれませんけれども、シルヴェストロフのすばらしい作品を演奏することで、人間として、芸術家として、少しでもウクライナの支援になればと思って取り上げました。そして、ショパン《ピアノソナタ 第3番》。ショパンはつねに私の人生と共にありました。今年、私は70歳を迎えます。その記念の年にこの曲を取り上げ、振り返ってみたいと思ったのです。年齢と共に、それまで気付かなかったもの、聞こえてこなかったものがわかるようになってきました。1975年にショパン国際ピアノコンクールに出場してからほぼ50年経った今だからこそ、という思いです。

 

———指導者、審査員として見る国際コンクールの今

どんなことにもプラスの面とマイナスの面があるという前提でお話ししようと思います。最近の国際コンクールのプラスの面は、ショパン、浜松、ルービンシュタインのようないわゆる大きなコンクールを、時差があるにもかかわらず配信で聴けること、後追いで観られることです。参加者にとっても、弾き終わった後に聴き直して、自分の演奏を客観的に分析できるという利点もあります。また、音楽関係者にとっても、100万人規模で視聴される配信は大きな宣伝になる。そういった意味では有益かもしれません。

Youtube配信のマイナス面は、電子機器を通して聴く音は、ホールで実際に聴く音とは全然違うものだということです。ホールで聴いた人が評価する場合と、コンテスタントが自分の演奏を後で配信で聞き直した時、あるいはコンテスタントの先生が自国で配信で聴く時とでは、印象に不調和が出てしまうんです。配信は人工的に調節もしていますから、それを聴くだけで判断はできない。やはりホールで聴くものが正しい評価の基準になります。

配信する時にコントロールして欲しいと思うのは、演奏中の視聴者からのコメントの書き込みです。単なる好き嫌いかもしれませんが、その中に悪意のあるものが紛れていたりします。もし出場者がそれを読んだら、次のラウンドに出る時、すごく辛いと思うんです。コンクールの期間中だけでも流さない方がいいと思います。

★WEB用36/13   カワイコンサートNo.2333 @兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール


———国際コンクールは世界に出ていくパスポートになり得るのか

コンクール自体は、パスポートになっていないのではないでしょうか。例えばキーシン、ユジャ・ワンのように、大きなコンクールには出ていなくてもすばらしいキャリアを築いているピアニストもいます。

重要なのは、コンクールに入賞した後も「どう精進し成長するか」です。私たちの頃は、「キャリアを作ろう」というより、「同じようなレベルの人たちの中で自分はどういう立ち位置にいるかを見極めよう」という姿勢で出場していたと思うのですが、今のコンテスタントたちは、ベートーヴェンのソナタショパンのエチュード数曲が弾けたら、とりあえずスーツケースを持って旅行に行くようにコンクールに参加する、そういう傾向があるように思うんです。私たちの頃は、十分に準備が整っていないのにコンクールに出ることは考えられませんでした。

インタビューは《後編》に続きます >>>

 

< Shigeru Kawai(シゲルカワイ)の魅力についてもお話しを伺っています >

Shigeru Kawaiは機械生産ではなく手作業で作られているとうかがっていますが、人間と同じで、楽器によって個性があって、製作者がどれだけ愛情を込めて作ってくださっているかが伝わってきます。ピアノは生きものだと思います。最初の一音からぴったりくることもありますし、お互い試行錯誤しながら音を見つけていく場合もあります。私はShigeru Kawaiの温かい音色が大好きです。弾く上でも非常に快適で、音域ごとのバランスがとてもいいですね。ピアノ製作者のプロフェッショナルとしてのスキルだけではなく、その方の人柄が楽器に映し出されているような気がします。そこにこの楽器の真実があるように思います。

 

PROFILE ディーナ・ヨッフェ Dina Yoffe

リガ(ラトビア)出身。チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院においてヴェラ・ゴルノスタエヴァに師事。シューマンおよびショパン国際ピアノコンクールで上位入賞。ヨーロッパをはじめ日本、アメリカ、イスラエルなど世界各地で演奏活動を行う。これまでにズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー、ネヴィル・マリナー指揮NHK交響楽団など多くのオーケストラと協演。また室内楽にも積極的で、世界各地の音楽祭に参加しY. バシュメット、M. ヴァイマンなどの演奏家とも数多く共演している。1989~1996年 テルアビブ大学(イスラエル)ルービン音楽アカデミー教授、1995~2000年に愛知県立芸術大学(日本)客員教授、2012~2014年にハンブルク音楽大学客員教授、2014~2015年にクラクフ 音楽アカデミー(ポーランド) 客員教授を務め、現在はマラガ国際音楽フェスティバル芸術監督、リセウ音楽院(バルセロナ)特別教授、中央音楽学院(中国) 客員教授。また、国際ピアノコンクール審査委員も多数務める。日本ピアノ教育連盟名誉会員。第18回ショパン国際ピアノコンクール審査員。

Website : https://www.dinayoffe.com/
Facebook: https://www.facebook.com/people/Dina-Yoffe-pianist/100064690115875/

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