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2026.08.17

数多くの実力派が活躍する日本の若手ピアニストのなかでも、ひときわ注目を集めている石井琢磨さん。ウィーンを拠点に活動し、この夏にはフランスの名門、イル・ド・フランス国立管弦楽団の全国ツアーにソリストとして参加。グリーグのピアノ協奏曲で、繊細かつ表情豊かな演奏を聴かせました。
一方、公式YouTubeチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」でみせる、自然体で親しみやすい人柄も人気の理由です。歴史的な名所から街角やカフェまで、石井さんがピアノに向かえば、そこにはたちまち音楽のある風景が生まれます。
演奏でも発信でも、多くの人を惹きつける石井さん。その魅力はどこから生まれるのでしょうか。全国ツアーの合間に、お話をうかがいました。
聞き手:高坂はる香(音楽ライター)
――― イル・ド・フランス国立管弦楽団の印象はいかがでしたか?
まず感じたのは、透明感のある音色を持つオーケストラだということ。それから、毎回違う演奏であることを好み、それを楽しんでいる人たちだということです。昨年、ツアーで共演したベルリン交響楽団は、どちらかというと一つの音楽を極めながら完成度を上げていくオーケストラだったので、全くタイプが違いましたね!
今回のツアーは、毎回緊張感を持ち、一発勝負で良い演奏を目指していく感覚がありました。ウィーン・フィルもこちらのタイプのオーケストラだと思います。奏者がそれぞれ毎回タイミングを変え、違うことをするので、それにみんなが心の中でクスッと笑い、反応していくのです。おかげで良い緊張感が生まれるのですが、あまりにもエキサイティングすぎて、今回は一体どうなってしまうんだろうと毎回思っていました(笑)。
僕は普段、本番の音を録ってそれを聴くことで次の公演に向けて完成度を上げていくのですが、今回のツアーでは途中で聴き返すのをやめました……みんな毎回違うから意味ないなと思って!
――― コミュニケーションがうまくいっているのは、ソリスト・アンコールのとき、オーケストラのみなさんが石井さんの演奏を楽しそうに聴いている様子からも窺えました。
そうかもしれないですね、本番前に「今日は何を聴きたい?」と尋ねたりしていましたから。リハの直前、彼らが「前日、回転寿司に行った」という話になったので、何皿食べたか聞いたら「58皿」と言うから、「食べ過ぎだよ!」と突っ込んでいたら、急にリハが始まったりとか(笑)。
ソリストとして、自分がフレンドリーでいることは大事です。離れたところに座っている奏者も含め、一人ひとりを認識してコミュニケーションをとることにも大きな意味があります。
もちろん、逆に交流は一切避け、自分の音楽を通してついてこさせるような“王様タイプ”のソリストや指揮者もいるとは思います。でも僕はみんなでワイワイするほうが好きなので、無理そうですね。

――― 今回はグリーグのピアノ協奏曲をShigeru Kawai SK-EXで演奏されました。オーケストラと共演する中でピアノにどんな印象を持ちましたか?
木管的な響きがして、低音が豊かに鳴る楽器です。メタリックなところがなく、あたたかく厚みのある音がするので、オーケストラの音とよく調和します。だからこそ逆にピアノの音が埋もれないように気を付ける必要はありました。弱音ペダルの踏み方を調整するとか、あと言葉で説明するのは難しいですが、割り切れないような響きにするため 1/f ゆらぎのような感覚で音を鳴らすとか。
基本的な水準がとても高い 1/f 楽器だけれど、その能力をさらに伸ばして弾きこなすためには、経験やテクニックも必要です。良い音が鳴っていると感じてもらえるよう、僕もいろいろなことを試しながら本番に臨みました。
――― 誰が弾いても安定した良い音がするピアノと、少し弾き手を試すようなピアノなら、どちらが好みですか?
やはりピアニストとしては、試されている感のあるピアノのほうが楽しいですね。優等生ピアノの出せる力の最高が100点で、最低でも50点が取れるとすると、試されている感のあるピアノは、奏者によっては10点になるけれど、うまく乗りこなせば250点を出せる魅力があります。SK-EXは後者のような、上のリミットがなく、ある瞬間にすばらしい輝きを見せてくれるポテンシャルを持った楽器です。
そしてこれを支えているのが、すばらしい調律師さんたちのクラフトマンシップなのだろうと思います。年間数人しか合格者が出ないというMPA(マスター・ピアノ・アーティザン)の資格を持った技術者が、繊細な楽器に寄り添って調整していらっしゃるからこそ、クオリティが保たれ、楽器が高得点を叩き出せるのでしょう。
――― 今日も小さな美しい音を遠くまで通らせようとするかなり“攻めた”ピアニッシモを鳴らしていましたね。
あれは、楽器が優れていることもありますが、とにかく調律師さんのおかげでできたことだと思います。今日のピアノは少し“じゃじゃ馬寄り”でしたが、それをあそこまで調整してもらえたことで、あのピアニッシモに挑めました。
――― ツアー中、調律技術者にリクエストしたことはありますか?
それが、何も言わなくてもわかってくれるんです! 病院でお医者さんが「どこが痛いですか?」と聞くみたいなことをしなくても、リハーサルを見ているだけで、言葉なしに、僕が気になっていそうなところを拾い上げてくれます。音で会話できているんですね。ただ僕はおしゃべりが好きだから、話しかければもちろん気さくに答えてくださいます。ツアー中、何人かの調律師さんにお世話になりましたが、みなさん一歩下がりながらも常に俯瞰して見ていてくれる方ばかりでした。
そういうスタンスから、調和し、寄り添う音を持つピアノが生み出されるのかもしれません。

――― ピアノという楽器のどんなところが好きですか?
難しい質問ですが……常にそこにいてくれるから好きなのかもしれないですね。家に帰ったらそこにいて、常にそばにいてくれるし、逃げません。
生きていると嫌なことも嬉しいこともあって、いろいろな感情が渦巻くけれど、ピアノはいつもそこにあって、僕が弾けばどんなときでも対話してくれます。言ってしまえば人間のエゴなのかもしれませんが、好きな理由はそこだと思います。
――― では、良いピアノだと感じるのは?
今回、まさにSK-EXに感じたことですが、先ほども言った“寄り添ってくれるピアノ”ですね。ピアノによっては楽器が王様で、「オレはこれだけいい響きを持っているんだからお前がちゃんと乗りこなせよ!」みたいな雰囲気を感じるのですが、SK-EXは、「ぼくはこういう音だからよろしくね。こういう風にやろうね」と、向こうから話しかけてくれます。これは他の楽器にはなかなかない、本当に特別な魅力だと思います。
| 公演日程 | 開演 | 会場 | 都道府県 |
|---|---|---|---|
| 9月21日(月・祝) | 14:00 | サントリーホール 大ホール | 東京 |
| 10月17日(土) | 14:00 | FFGホール | 福岡 |
| 11月3日(火・祝) | 13:30 | ザ・シンフォニーホール | 大阪 |
| 11月7日(土) | 14:00 | しらかわホール | 愛知 |
| 12月19日(土) 12月20日(日) |
各日13:00 | 札幌コンサートホール Kitara 小ホール | 北海道 |
東京藝大を経てウィーン国立音大ピアノ科に入学、同大学修士課程を満場一致の最優秀で卒業。ポストグラデュアーレコース修了。2016年ジョルジュ・エネスク国際コンクール(ルーマニア・ブカレスト)ピアノ部門2位受賞。 ”TAKU-音 TV たくおん”YouTubeチャンネル総再生回数は1億回を超え、チャンネル登録者数も34万人突破。サントリーホール大ホール公演が発売3分で完売。2024年、25年と全国ツアーでは総動員数1万人を動員。2025年6月、満席のベルリン・フィルハーモニーにて日本人ソリストとして大成功を収め、一躍世界的脚光を浴びる。2026年石井琢磨プロデュースの4台のピアノを使用して男性ピアニスト8人16手で奏でるピアノプロジェクト「PIANO CLOVER」略して「ピアクロ」が始動。古き良きクラシック音楽に主軸を置きながら、「クラシックをより身近に」がコンセプトのピアニスト。
「世界一のピアノづくり」を目指す当社が、2001年に発表したフルコンサートピアノのフラッグシップモデル。コンサートピアノとして要求される最高の表現力を実現するために、響板には十分に厳選した材料だけを使用し、原器工程と呼ぶ伝統的な手作り工程で生産。またShigeru Kawaiグランドピアノシリーズで採用した新素材を随所に取り入れた革新的なウルトラ・レスポンシブ・アクションIIが、高い連打性と安定したタッチ感を提供する。繊細で伸びやかなピアニッシモに加えて、力強い輪郭のはっきりした響きが特長。