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2023.11.30

【インタビュー】 エヴァ・ポブウォツカさん 《前編》

2023年10月、埼玉(市民会館おおみや・レイボックホール)と東京(カワイ表参道)にてリサイタルをおこなったエヴァ・ポブウォツカさん。ツアーの合間にカワイ表参道にてお話しを伺いました。第10回ショパン国際コンクールで5位入賞、同時にマズルカ賞も受賞した経歴ながら、近年ではJ.S.バッハの音楽にフォーカスした活動が多いエヴァさんに、バッハ演奏との出会いやその作品の魅力、また演奏する際のテンポの設定やペダル使用についてなどたっぷりとお話しくださいました。前編・後編に分けてお届けします。

訊き手・文=道下京子(音楽評論家) Text=Kyoko Michishita

WEB用★DSC_2994ピアニスト:エヴァ・ポブウォツカ

———10月24日には大宮で、そして25日にはカワイ表参道でリサイタルをされました。

多くのお客さまに聴いていただき、嬉しく思います。また、私にとってバッハを演奏することは特別なことで、とても幸せなことでした。


———大宮では、バッハの他に、シューベルトやショパン、リスト=ワーグナーも演奏されました。

リサイタルで弾く曲はすべて、私の好きな曲です。その中で、ワーグナー=リストの《イゾルデの愛の死》が一番好きです。とても寂しいキャラクターを持っています。
リサイタルを依頼される際、ショパンの作品をリクエストされることが多いですね。でも、他の作曲家の作品も入れるようにしています。プログラムの構成にはじっくりと時間をかけます。調性のつながりや形式など、さまざまな要素を緻密に組み合わせようと考えています。


———カワイ表参道では、オール・バッハのプログラムでした。ポヴウォツカさんは、ショパンのスペシャリストでいらっしゃいますが、バッハの大家としても知られています。

私は、そう思いません。なぜなら、私は室内楽も演奏しますし、シューベルト、シューマン、モーツァルトなど、いろんな作曲家の作品も弾いています。
もちろん、いま、バッハの《平均律クラヴィーア曲集》の48曲すべてを演奏したことは、5曲、10曲しか弾いていなかった頃よりも理解が深まっているとは感じています。

WEB用★静止画002エヴァ・ポブウォツカ ピアノリサイタル@さいたま市民会館おおみやRaiBoC Hall小ホール


———子どものころのバッハ経験、衝撃的なバッハ演奏との出会いをお聞かせいただけますか?

家の近くに、ヨーロッパでも屈指のオルガンが設置された教会があり、小さい頃には良く足を運んでいました。そこで開かれるオルガンのコンサートで頻繁に演奏されていたのが、バッハの作品でした。

私の母は歌手でしたので、バロックの音楽もたくさん歌っていて、そのなかにバッハの作品もありました。ですから、子どものころから自分でカンタータを歌うなど、バッハの音楽は私にとってとても身近なものでした。

バッハ演奏について最も大きな影響を受けたのは、フィリップ・ヘルヴィヒのバッハのコンチェルト全曲を聴いた体験でした。コレギウム・ヴォカレというご自身の演奏団体を持っていた指揮者ですが、バッハのミサ曲をヘルヴィヒとその団体の演奏ですべて聴きました。とても色彩豊かで、舞曲的な要素があり、彼からバッハのアーティキュレーションや時間の使い方など多くを学びました。

指揮者がオーケストラとカンタータのリハーサルをする場面を、想像してみてください。彼は、カンタータのテキストを持ち、オーケストラ(器楽奏者)の人たちに歌詞に語られている言葉について説明するのです。つまり、言葉は、演奏理解にとても助けになります。私は子どものころから演奏をしていますが、母が歌い手だったこともあり、私にとって言葉は演奏の助けになってます。ですから、言葉と音楽は密接に結びついていることを感じています。


———タチアナ・ニコライエワさんにも師事されたとうかがっています。

先生と出会った他にも、いろんな先生のマスタークラスを受けました。バッハの演奏に関しては、私も自らの考えを強くもっていました。ただ、ニコライエワ先生はとても素晴らしく、彼女の《ゴルトベルク変奏曲》の美しさは、私にとって唯一です。
バッハに関して、ニコライエワ先生にもお考えがあり、一方で私にも考えがあり、それゆえよく議論をしました。


———ポヴウォツカさんにとってのバッハ作品の魅力をお訊かせください。

すべてです。とても明晰で明快な形式、様式…美しい和声や多声の旋律線、そしてそのロジックですね。そのなかに潜む神秘的な要素にも惹かれます。
ロンドンのBBCにも、同じような質問をされたことがありました。そのときは、答えを出すのにずいぶん考えましたが、いまならばわかります…バッハの何が美しいかを。

バッハの音楽には、人間的な要素と作曲家としての要素があり、バッハはとても奥深い人物でした。その信仰深さは、作曲家としてのバッハ、人間としてのバッハと結びつき、そこから作品が生まれたのだと思います。卓越した作曲能力と信仰深さが、バッハならではの神秘的な要素を生み出していると思います。

以前、審査員として海老彰子さんとスイスへ行ったことがあります。山本有宗さん(カワイヨーロッパの調律師)とカワイのグループとしていきました。午前10時からの審査に間に合うように、美しい自然をみるために午前7時にシャモニを出発しました。目の前にモンブランが見えてきて、美しい陽光を浴びるなかで、美味しいコーヒーをいただきました。そしてコンクールに間に合うように、帰途につきました。その車中で、私が演奏したバッハの《平均律クラヴィーア曲集 第1巻》のCDを山本さんがかけてくれました。私の演奏だったからというわけではなく、そのバッハの音楽が車中のみなさんの心にスーッと入ってきました。自然…つまり神様とバッハとの出会いの瞬間を感じ、それはとても素晴らしい経験でした。

インタビューは《後編》に続きます >>>

< Shigeru Kawai(シゲルカワイ)の魅力についてもお話しを伺っています >

自分の音楽に必要なものを叶えてくれる楽器。想像していることを実現できる楽器です。それは奇跡的なことであり、ピアニストにとってその楽器と向かい合い、やりたいことをかなえてくれる楽器とめぐりあえて、とても幸せです。

コンチェルトの時、さまざまなシチュエーションから、いつもと違うことをしてみようと思うことがあります。そう考えただけで、カワイは瞬時にそれを実現してくれるのです。これは、調律師の力もとても大きく、かれらの音楽的センスとの相性もあるかと思います。「こうしたい」と思っていると、それを感じ取ってくださいます。

———バッハ特有のポリフォニーについては?

ポリフォニーについては、耳の能力にもよります。ピアノという楽器は、アーティキュレーションやタッチ、そしてデュナーミクの幅…特に、アーティキュレーションの選択肢の多さは、ピアノで演奏する際に魅力になると思います。

 

PROFILE エヴァ・ポブウォツカ Ewa Pobłocka

第10回ショパン国際ピアノコンクールで第5位入賞。同時にマズルカ賞も受賞。1977年ヴィオッティ国際コンクール優勝、1979年ボルドー国際コンクール優勝。1981年現在のグダニスク音楽院を首席で卒業。ハンブルクの大学院でコンラート・ハンゼンに師事の後、ルドルフ・ケーレル、タチアナ・ニコラーエワ、マルタ・アルゲリッチ等に師事。これまでに世界各地の主要コンサートホールにおいて公演を行うほか、ロンドン響、バイエルン放送響等オーケストラ・指揮者と多数共演。室内楽でも熟達している。バロックから現代音楽まで幅広いレパートリーを持ち、ドイツ・Grammophon、Polski Nagrania、CD Accord、Beartonなどから50作品以上リリースされているCDの多くは賞を受賞し批評家からの高い評価を得ている。最近ではカワイSK-EXで録音をしたNIFCレーベルのCD「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」が、グラムフォンマガジンおよびレコード芸術で特選盤に選ばれている。優れた教育者としても知られており、現在はポーランド国立ビドゴシチ音楽アカデミーで指導にあたる。日本でも過去に東京藝術大学、名古屋芸術大学にて客員教授を務めた。世界各地でマスタークラスを実施するほか、ショパン国際ピアノコンクール(2005, 2015,2021)、ルービンシュタイン国際ピアノコンクール(2021)、浜松国際ピアノコンクール(2012)など多くの主要国際ピアノコンクールの審査員も務めている。最近では執筆も意欲的に取り組み、著書「Forte-piano」を2021年に出版。2018年頃からはJ.S.バッハの音楽にフォーカスした活動が多く、ポーランドでのラジオにて「Start with Bach」「Bach’s Cases」2つの番組が放送されたほか、平均律クラヴィーア曲集CD録音の完結、ロンドン・ウィグモアホールでのバッハリサイタルシリーズ2021~22などを予定している。

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