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2023.11.30

【インタビュー】 エヴァ・ポブウォツカさん 《後編》

2023年10月、埼玉(市民会館おおみや・レイボックホール)と東京(カワイ表参道)にてリサイタルをおこなったエヴァ・ポブウォツカさん。ツアーの合間にカワイ表参道にてお話しを伺いました。第10回ショパン国際コンクールで5位入賞、同時にマズルカ賞も受賞した経歴ながら、近年ではJ.S.バッハの音楽にフォーカスした活動が多いエヴァさんに、バッハ演奏との出会いやその作品の魅力、また演奏する際のテンポの設定やペダル使用についてなどたっぷりとお話しくださいました。前編・後編に分けてお届けします。

訊き手・文=道下京子(音楽評論家) Text=Kyoko Michishita

【インタビュー】 エヴァ・ポブウォツカさん 《前編》 バッハ演奏との出会いと作品の魅力・・・はコチラから>>>

WEB用★パウゼバッハリサイタルバッハリサイタル@カワイ表参道


———ポヴウォツカさんは、2018年にバッハの《平均律クラヴィーア曲集 第1巻》を、そのあと第2巻を録音されました。

私の夢でした。カワイのみなさんが、それを叶えてくださったのです。カワイのピアノは、どんな作品においても私が考えている表現をよく叶えてくれる。相性の良さを強く感じます。


———ところで、10月に開催されたショパン国際ピリオド楽器コンクールでも、審査員を務めました。

第1回よりもとても興味深かったです。良い楽器で、しかも選択肢が多かったですね。そして、ピリオド楽器のこと、そして演奏についても歴史の様式についてもよく知っている人がたくさん参加していました。


———モダン・ピアノで弾くバッハについて、どのようにお考えですか。

これまで数多く演奏してきましたので、考えるところはたくさんあります。一つには、特にチェンバロやフォルテピアノの様式で弾こうとはまったく思わないですね。与えられたモダンピアノの、楽器の可能性をとにかく引き出したい。バッハの演奏では特にそのように思います。


———例えば、バッハは、実際の演奏ではさまざまな装飾や即興的な表現を入れていました。

装飾や即興的な表現が必要な箇所では、自分で考えて演奏しています。


———バッハは、テンポを記していなかったと思います。テンポの設定について、どのようにお考えですか。

オリジナルの楽譜を見ます。譜面からキャラクターを感じ取ることはできますし、そして調性は明確に示されてます。また、音域については跳躍が大きい箇所では、少し時間をかけて演奏します。それから、演奏する空間によってテンポは変わりますので、最初からテンポを決めつけているわけではありません。研究書などによると、バッハは速いテンポが好きだったと書かれていますね。


———バッハを演奏する際の、ペダルの使用については?

まず、ピアノという楽器の可能性を余すところなく引き出すことを信念としています。なかには、ペダルをまったく使わないことに価値を置く演奏家もいると思います。私は、必要だと思われる箇所でペダルを使います。例えば、第2巻の第1番のプレリュードは、オルガンのように弾きたいですね。もしも、オルガンのような効果が欲しいとイメージして弾くとすれば、ペダルなしでは弾くことはできません。

WEB用★DSC_3037ピアニスト:エヴァ・ポブウォツカ

———バッハ特有のポリフォニーについては?

ポリフォニーについては、耳の能力にもよります。ピアノという楽器は、アーティキュレーションやタッチ、そしてデュナーミクの幅…特に、アーティキュレーションの選択肢の多さは、ピアノで演奏する際に魅力になると思います。

 

———バッハの音楽では、過去の演奏習慣に忠実な演奏が一つの流れになっていますが、バッハの作品は新しい演奏表現の可能性を秘めていると思います。

バッハの作品については、膨大な量の録音が残されていますね。先ほど申し上げたように、ペダルをまったく使わなかったり、とても即興的に演奏されたりなど、さまざまな録音があります。
私の好きな録音ですが、まず、エドウィン・フィッシャーは、とってもロマンチックに演奏していますね。また、ロシア・ユダヤ系のサムイル・フェインベルクの演奏を聴き、強い衝撃を受けました。最近では、ニコライ・デミジェンコ。とてもエモーショナルなバッハですね。彼らの演奏はそれぞれまったく異なりますが、非常に深い感動を覚え、高貴な演奏だと思います。


——私もフィッシャーのバッハは大好きです。《平均律クラヴィーア曲集》の話に戻りますが、第1巻と第2巻の書法や表現の違いをどのように感じていらっしゃいますか。

第1巻から第2巻までの創作期間は空いています。息子や教え子たちのために書かれたと言われているのが第1巻、そして自分のために作曲したのが第2巻。ですから、第2巻の作品は、演奏の可能性や想像力を掻き立て、より哲学的な要素を感じます。第1巻は学生時代から弾いていて、私の先生の注意書きなどがヒントとしてありました。第2巻については新しく取り組んだ作品もあり、自ら表現を見つけていきました。バッハの魅力に目覚めさせてくれたのは、イェジー・スリコフスキ先生でした。


———私は、個人的に第2巻の14番が好きです。

私もです。これは第1巻の第14番のことですが、フェインベルクの演奏は本当に素晴らしく、フォルテで開始します。そのような弾き方をしているピアニストは、ほかにはいません。私もほかのピアニストと同じように弾いています。でも、フェインベルクの弾き方を知っているので、そういう風に弾きたいと思い、そうやって練習をしてみましたし、いろんな弾き方でも録ってみたけれど、次の日に自分のバージョンで弾いてみたところ、それをまねることはできないとの結論に達しました。生徒にも話すのですが、さまざまなピアニストのアイディアを取り出して合わせようとしても、合うわけがありません。
もうひとつ!私は、すべてのプレリュードに名前やテーマをつけています。音楽とは全く関係ない名前をつけています。


———例えば、どんな名前ですか。

ロ長調のプレリュードは、「空へのはしご」。だんだん明るくなりますよね。それから、第1番のプレリュードは「アヴェマリア…ではなく」(笑)。
嬰ハ短調のフーガですが、3つのバージョンを録ってみました。でも、録音技師が「違う」とおっしゃるのです。「最初の音を、嬰ハ短調で弾いてくれますか」と言われました。普通、それを和音で感じていきますが、嬰ハ音(♯ド)の音だけで短調をもっと聴かせてほしい、と。違う時間の使い方やタッチ、違う呼吸によって表現することができます。

WEB用★静止画003エヴァ・ポブウォツカ ピアノリサイタル@さいたま市民会館おおみやRaiBoC Hall小ホール

 

< Shigeru Kawai(シゲルカワイ)の魅力についてもお話しを伺っています >

自分の音楽に必要なものを叶えてくれる楽器。想像していることを実現できる楽器です。それは奇跡的なことであり、ピアニストにとってその楽器と向かい合い、やりたいことをかなえてくれる楽器とめぐりあえて、とても幸せです。

コンチェルトの時、さまざまなシチュエーションから、いつもと違うことをしてみようと思うことがあります。そう考えただけで、カワイは瞬時にそれを実現してくれるのです。これは、調律師の力もとても大きく、かれらの音楽的センスとの相性もあるかと思います。「こうしたい」と思っていると、それを感じ取ってくださいます。

 

 

PROFILE エヴァ・ポブウォツカ Ewa Pobłocka

第10回ショパン国際ピアノコンクールで第5位入賞。同時にマズルカ賞も受賞。1977年ヴィオッティ国際コンクール優勝、1979年ボルドー国際コンクール優勝。1981年現在のグダニスク音楽院を首席で卒業。ハンブルクの大学院でコンラート・ハンゼンに師事の後、ルドルフ・ケーレル、タチアナ・ニコラーエワ、マルタ・アルゲリッチ等に師事。これまでに世界各地の主要コンサートホールにおいて公演を行うほか、ロンドン響、バイエルン放送響等オーケストラ・指揮者と多数共演。室内楽でも熟達している。バロックから現代音楽まで幅広いレパートリーを持ち、ドイツ・Grammophon、Polski Nagrania、CD Accord、Beartonなどから50作品以上リリースされているCDの多くは賞を受賞し批評家からの高い評価を得ている。最近ではカワイSK-EXで録音をしたNIFCレーベルのCD「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」が、グラムフォンマガジンおよびレコード芸術で特選盤に選ばれている。優れた教育者としても知られており、現在はポーランド国立ビドゴシチ音楽アカデミーで指導にあたる。日本でも過去に東京藝術大学、名古屋芸術大学にて客員教授を務めた。世界各地でマスタークラスを実施するほか、ショパン国際ピアノコンクール(2005, 2015,2021)、ルービンシュタイン国際ピアノコンクール(2021)、浜松国際ピアノコンクール(2012)など多くの主要国際ピアノコンクールの審査員も務めている。最近では執筆も意欲的に取り組み、著書「Forte-piano」を2021年に出版。2018年頃からはJ.S.バッハの音楽にフォーカスした活動が多く、ポーランドでのラジオにて「Start with Bach」「Bach’s Cases」2つの番組が放送されたほか、平均律クラヴィーア曲集CD録音の完結、ロンドン・ウィグモアホールでのバッハリサイタルシリーズ2021~22などを予定している。

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