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2023.07.31
取材・文=武田奈菜子(音楽ジャーナリスト)
僕はこの曲が大好きなので、その気持ちを伝えたいという思いで演奏しました。フランスの作曲家なので、フランスのみなさんはそれぞれにこだわりを持っていらっしゃるかもしれないけれども、それを気にするのではなく、『この曲のみんなが知らないような良さまで伝えたい!』という気持ちで弾きました。『結果はどうなってもいい。とにかくこのステージを楽しもう』という気持ちで純粋に音楽に入り込めたと思います。フランスの審査員の先生方から、フランスの作品を褒めていただけたのがすごく嬉しかったです。
自分自身の中では、これを機にすごく大きく変わったということはないんですが、ステージを一つ上がれたかなと感じています。たくさんコンサートをさせていただけるようになったり、海外でのコンサートも少しずつできるようになったり、そういう次のステージへの新しいスタートが切れたという感覚です。
SNSもひとつの発信の場として活用しています。演奏動画を再生して何度も聴きたいと思っていただけるのはとても嬉しいですが、やはり映像だけでなく、ぜひ生の演奏を聴きに来ていただきたいと思います。映像で感じられるものから入って、生のコンサートに足を運んでいただき、『こんなに違うんだ!』と体験して、クラシック音楽を好きになっていただけたら嬉しいです。空気の振動、呼吸、空間全体のエネルギーなど、小さいデバイスでは感じられないものが、そこにはあると思います。
「新しい環境でレッスンを受けられることが、もちろん一番楽しみですけれども、言語や文化の違いだったり、音楽が創られた根底にある感覚や世界観みたいなものを肌で感じられる、そういった生活そのものに価値があると思っています。ヨーロッパで生活していく中で、現在僕が持っているクラシック音楽に対する世界とまた違うものが見えてきたらいいなと期待しています。コンサートにもたくさん足を運びたいですし、作曲家の見ていた風景だったり、話していた言語、それから食事など、作曲家のいた日常を経験できるのがいいですね。
深めたい作曲家としては、ベートーヴェンももちろんですが、これから特にブラームスを勉強していきたいと思っています。僕はジャンルとしてピアノ協奏曲が大好きなので、まずはメジャーな作曲家から、腰を据えて勉強していきたいと思っています。フランスの作品も、音そのものの洗練された感じだったり、響きにフォーカスを当てたようなところが好みですし、ショパンも大好きだし、ロシアものも好きですし、先生とも相談しながら、あまり絞りすぎずにいろいろ勉強していきたいと思っています。
僕は作曲もしていますので、演奏の分野と作曲の分野をうまく絡めながら、演奏にも作品にも自分の色をどんどん出せるようにしていって、いずれは自分の作品も含めてプログラムを組んだり、ピアノ協奏曲を作曲して弾いてみたいという思いもあります。そういった多角的な活動を目指していきたいです。演奏活動に加えて、少しずつ作曲活動も続けていって、昔のすばらしい音楽を再現するだけではなく、何か『次なるもの』を生み出していけるような音楽家になりたいというのが現在の希望です。