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2023.03.21
2022年6月に開催された「第8回仙台国際音楽コンクール・ピアノ部門」(6月11~26日・日立システムズホール仙台)。各国の俊英らによる熱戦のなか、日本の太田糸音が第3位に入賞したことは喜ばしかった。その5カ月後の11月27日、同コンクールに出場した4人のピアニストが東京に集い、それぞれに思いのこもった選曲で、審査ではなくコンサートというステージでその美質を聴かせた。
会場のベルサール虎ノ門(旧JTアートホールアフィニス)には、国際コンクールでもお馴染みのカワイフルコンサートピアノSK-EX(以下SK‐EX)が常設されており、4人にとってはコンクールで共に闘い、寄り添ってくれたピアノの兄弟分(同じ型)だ。
最初に岩井亜咲(東京藝術大学4年在学中)。主張のはっきりとしたモーツァルト「ピアノ・ソナタ第8番」と、リスト「ハンガリー狂詩曲第12番」では激しいリズムの展開で弾ききった。
田母神夕南(ペロージ音楽院在籍)は武満徹《雨の樹素描Ⅱ―オリヴィエ・メシアンの追憶に―》で開始し、シューマン「トッカータ」、ドビュッシー「4度音程のために」、ストラヴィンスキー(アゴスティ編)「組曲《火の鳥》」を、抜群のセンスで弾き進めた。
後半は、まずセミファイナリストの黒崎拓海(フランツ・リスト・ワイマール音楽大学修士課程在学中)。シューベルト《さすらい人幻想曲》では、若くして驚くほど深い読譜と解釈に驚かされた。響きの方向をキャッチできる耳のため、シューベルトの歌心をピアノに乗せる巧さ。一転してリスト《リゴレット・パラフレーズ》では、ヴェルディとリストの絢爛たる世界を存分に聴かせる。ここでもSK-EXの可能性を示すように、多彩な音色で会場を魅了した。審査員からの評価も高かったと聞く。コンクールには縁もあるから、音楽観には自信を持って歩んでほしい。
最後は入賞者の太田糸音(ベルリン芸術大学大学院在学中)。まずJ・S・バッハ(ブゾーニ編)《シャコンヌ》で技巧の底力を聴かせる。太田の揺るがないパワーに、SK‐EXも応える分厚い響き。シューベルト「即興曲」op142-3では、めくるめく流麗な旋律。美しい響きから生まれる倍音は、SK-EX特有の色合いで心地よい。そして色彩の祭典のごとく、ラヴェル《ラ・ヴァルス》。スケール大きなリズムのなかに、毒々しいほどの協和音と不協和音。狂おしいまでの楽想と一体化する太田のなかに、まだ表れていない可能性も感じる。
次に聴くときの4人、またどのような世界を聴かせてくれるか楽しみだ。